歴史を築いた偉大なベーシスト達 第13回
このシリーズも最近はアコースティック・ベース奏者の紹介が続いていましたが・・・
今回はベース界の大谷翔平を紹介させていただきます。

エレクトリック・ベースとアコースティック・ベースの二刀流です!

両方とも世界最高峰のスキルで他の追従を許しません。
こんな“どっちも凄い人”はそうそういません・・・
ジョン・パティトゥッチ

ジョン・パティトゥッチ(John Patitucci 1959年12月22日〜)

彼の存在を知ったのはすでに36年前になりますが、「チック・コリア・エレクトリック・バンド」のファースト・アルバムを聴いた時でした。
チック・コリア・エレクトリック・バンド

1986年に発表されたこのアルバムはとにかく世界に衝撃を与えました。シンセサイザーなど時代の最先端を行くエレクトロニクス楽器を駆使して、音楽自体も時代の最先端いく途方もなくハイスペックなサウンドでした。

とりわけチックが起用した若手2人のジョン・パティトゥッチとドラムのデイヴ・ウェックルのリズム隊の“超絶バカテク加減”が本当に半端なくて、世界中で「ヤベー!この2人上手過ぎ!」みたいな風潮でした。
YAMAHA 6弦ベース

通常の4弦ベースの低い方と高い方に1本ずつ弦を足したのが“6弦ベース”です。
その分コントロールするのは非常に難しくなりますが、4弦ベースでは再現出来ない重低音と、逆にメロディーなどを弾くには映える高音をカバー出来ます。

そもそもは1970年代後半からアンソニー・ジャクソン※が楽器工房に制作を依頼し「コントラバス・ギター」と呼んで使い始めたのが最初とされていますが、当時は価格も含め様々な意味で“あまりにも特殊な楽器”という扱いで彼以外のプレイヤーはほとんど使いませんでした。というか“アンソニー・ジャクソンにしか弾きこなせなかった”というのが妥当かもしれません。

※アンソニー・ジャクソン
アメリカの実力派セッションベーシスト。「歴史を築いた偉大なベーシスト達 第4回」(2020年8月2日UP)で記事にしています。興味のある方はそちらをご参照ください。

現在では様々な楽器メーカーが“6弦ベース”を製造及び販売していますが、日本のYAMAHAはいち早く特殊なアンソニー・ジャクソンの「コントラバス・ギター」とは異なり、価格的にも弾き心地的にも“誰でも気軽に弾ける6弦ベースの開発“に着手し、試行錯誤を繰り返しやっと製品化に成功しました。ジョンを初めとする世界的なプレイヤー達から「これなら普通に使える6弦ベースだ!」と最初に認められた企業だと思います。

「チック・コリア・エレクトリック・バンド」でのエレキベースのジョンはとにかくこの「YAMAHA 6弦ベース」を縦横無尽に弾くまくるイメージでした。その勇ましい姿を見て「ボクも6弦ベースを弾いてみたい!」と思った若きベーシストが星の数ほどいたと思います。ジョンが“YAMAHA6弦ベース”の認知度と売上にかなり貢献したのは疑いもない事実でしょう。
フェンダー・ベースⅥ

話は少し逸れますが、ここまで説明してきたのは4弦エレキベースから進化した“6弦ベース”でしたが、エレキギターのチューニングをそっくりそのまま1オクターブ下げた“6弦ベース”は1960年代からFender社の“フェンダー・ベースⅥ”が存在していました。

これはギタリストが比較的安易にベースパートを演奏できるというメリットがありました。
ビートルズでポール・マッカートニーがピアノを弾いている時など、ジョン・レノンやジョージ・ハリソンがベースを弾く場合がありましたが、その時彼らが使用していたのがこの“フェンダー・ベースⅥ”です。

他にも様々な調弦を施した“低音ギター”が存在しますが、これらを4弦エレキベースから進化した“6弦ベース”との差別化のために現在では総称して“バリトン・ギター”と呼んでいます。
チック・コリア・アコースティック・バンド

ジョンはエレクトリック・バンドでも素晴らしいアコースティック・ベースの腕前を披露していましたが、こちらのアコースティック・バンドではストレートアヘッドなジャズにおいて“アコースティック”の文字通り彼のコントラバス奏者としての圧倒的な音楽性とスキルが堪能出来ます。
Heart Of The Bass

ソロ名義でも多数のアルバムを発表しているジョンですが、このアルバム「Heart Of The Bass」でジョンはオーケストラをバックに「6弦エレキベース・コンチェルト」及び「コントラバス・コンチェルト」を披露しています。これは驚異としか言いようがありません。

いわゆるジャズ、フュージョン畑のプレイヤーが“クラシック畑”という道場に道場破りを仕掛けたようなものです。

コントラバスに限らずどんな楽器の演奏家でも“コンチェルト(協奏曲)”を演奏することは大きな憧れです。ましてコントラバスは通常は“縁の下の力持ち”的存在で、主にボトムを支える事が要求される楽器なので、プロの演奏家の中でも本当にほんのひと握りの人間しかそんな“コンチェルトを演奏する機会”は与えられません。

このアルバムでジョンは純粋なクラシックのコントラバスのソリストたちと比較しても、勝るとも劣らない素晴らしいアルコ(弓弾き)も聞かせてくれています。

垣根を超えて様々なジャンルで常に最高峰のパフォーマンスができるジョンは、ある意味“世界一のベーシスト”と言えるかもしれません。

ジョン・パティトゥッチは現在62歳ですがアメリカの大学で教鞭をとりながら、世界の第一線で活躍しています。まだまだ現役バリバリなのでこれからも彼の動向から目が離せません。

彼をご存知なかった方はこれを機会に“世界最高峰の二刀流”を聴いていただけたら幸いです。(サトーB)